6.疫病感染危険指数DSVを使用した適正な農薬使用への示唆
圃場レベルの気象条件が疫病発生に与える影響を明らかにするためには、気象観測と実際の疫病初発日の観察を継続する必要があります。強調すべきは、気象情報が先進的な農民の経験を客観化する役割があることです。サクーの先進的な農家が指摘していた夏バレイショと冬バレイショの疫病発生状況と対応の違いについて、疫病発生危険日の予測結果は科学的根拠を与えます。
すなわち、サクー村における冬バレイショと夏バレイショの農薬使用の違いについて、以下の「仮説」を立てることができます。
(1) 冬バレイショは気象要因による疫病発生の可能性は小さい –> 農薬は不要の可能性がある
(2) 夏バレイショの疫病発生リスクは極めて高い –> 疫病感染危険指数DSVが18になった時点で農薬を散布する、その後は降雨量などの気象情報によって適正な間隔で農薬を散布する。
上記の仮説は、 (1) 無感染の種イモ供給、(2) 密植を避けるなどの栽培法の改善、を前提にしています。加えて、簡易な疫病観察圃場を設置し、疫病の初発日を記録することが重要です。これらは農民の日々の営農活動そのものです。
農薬は肥料とは違います。肥料は収量を増加させます。これに対して、農薬は病害による「損失」を減らすためのものです。疫病が発生していないのに、農薬を散布すれば、無駄な出費となるだけです。農薬は、適時、適量使うことで、損失を減少させます。そして、なによりも農家自身の健康に与えるリスクを最小限にします。
疫病は個々の農民の努力だけでは抑えることができません。気象情報の利用によって、客観的な疫病感染に関する情報を取得し、共有し、個々の農民が対処することが、サクーの農業の持続性を保証します。気象情報を共有し、疫病危険指数を周知することが、全村的な疫病対策の第一歩です。
以上、BLITECASTによる疫病危険指数は、トマトの栽培にも有効です。フィールドサーバは気象情報のみならず、土壌の水分・栄養情報など、設置するセンサーを選択することで、さまざまな持続的な農業のための基礎情報を圃場レベルで取得することができます。
参考文献:
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Krause, R. A., L. B. Massie, and R. A. Hyre, 1975: BLITECAST: A Computerised Forecast of Potato Blight, Plant Disease Reporter, 59(2), 95-98.
※BLITECAST開発の経緯はKlause(1975)を参照ください。またFry(1978)は、疫病発生と気温、相対湿度などの関係の実験根拠を示し、BLITECASTを適用した場合のバレイショ疫病の罹患率infection rate とMancozeb散布の効果を評価した文献です。