4. フィールドサーバNexagによる気象観測
2015年にNDHIがサクーの降雨量の観測を中止したため、サクーの農民グループによる気象観測を始めました。予測に必要な観測データを得るためには、観測機器を”人目にさらされない”隔離した場所に設置することがベストです。しかし、技術移転の領域、私どもが課題とする疫病予測の場合は逆効果になりかねません。いわゆる成果のデモンストレーション効果に終わらないように、活動を「見える化」し、経験知を蓄積することが望ましいのです。
FLABSによる疫病予測は観測変数の数が少なく、日データを使用するので、地域住民の手で気象観測することにしました。しかしながら、継続的な観測値を得るまでに、観測者との間で試行錯誤の時間が過ぎました。
農民あるいは地域住民の手による気象観測活動については、以下のような問題が生じました。簡易な計測器(センサーを含む)は、現地で同一の性能を保証する機器が入手不可能であることが多く、観測期間におけるデータの精度が一定とならない可能性がある。観測者が「お祭り」で不在となるような場合、代わって観測できる人がいない可能性がある。
試行錯誤を経て、2016年にFLABSによる疫病発生初発日を予測し、気象情報の有用性を確かめることができました(農業開発研究会(2017)参照)。2018年10月、サクーにフィールドサーバ Nexagを設置し、圃場レベルの毎10分の自動計測を開始しました。これによって、気温、相対湿度、降雨量の毎時データを使用したバレイショ疫病発生予測の世界標準、BLITECASTによる予測が可能になりました。
フィールドサーバとは、フィールド (現場)の環境や動植物のモニタリング、 監視等を行うセンシング機能と通信機能を一体化したモニタリングデバイス のことです(以下 https://www.naro.go.jp/publicity_report/press/laboratory/carc/043287.html 参照)。
コンパクトなボディ にモニタリングに必要なすべての機能を実現し、屋外の気象データや画像などの計測データをWebで見ることができます。ポケットマネーで利用できるくらいに低コストで、しかも設置や操作が簡単にできる小型計測ロボットのイメージです。フィールドサーバは、圃場に設置するだけで、気温、湿度、日射量、土壌水分などの気象データや画像による作物の生育状況などを観測し、データを蓄積することができます。農業の場合、計測項目は、気温、湿度、日射量、日照量、土壌水分、土壌温度、水温、CO2濃度、葉の濡れ、紫外線強度などがあります。画像情報で、生物動態、病虫害発生、水位などのモニタリングが可能となります。
日本では、2002年ごろから実用化モデルが開発され、2004年ごろから市販品が出回るようになりました。近年の急速な通信環境の変化によって開発が加速化し、現在、輸入品を含め、多くの市販製品が出回っています。しかしながら、ポケットマネー(6万円くらい)で利用できるという製品価格の目標はまだ達成されていません。
サクーでの設置当時、また、カトマンズではNexag仕様のバッテリー、小型のディープサイクル鉛電池の入手が困難でした。また、インターネット通信は3Gレベルでした。結果的に、気象観測データを継続的に得ることができませんでした。
2021年1月、ソーラー発電による充電を、カトマンズで購入可能な、容量の大きい自動車用鉛バッテリーに置き換える対策をとり、現地の通信状況に対応したファームウエアーを作成し、より高い精度をもつNEXAG改良機を設置しました。これによってフィールドサーバの実用の目途が立ちました。
NEXAGが現在使用しているセンサーの精度は次のとおりです。
NEXAGのセンサー精度
■温湿度センサー
標準湿度精度 :±3%RH 25℃に於いて(20~80%RH)
標準温度精度 :±0.5℃(25℃に於いて)
■土壌水分センサー
体積含水率(VWC) :±3% フルスケール (VWC 0~50%時)
±10% フルスケール (VWC 50~100%時)
電気伝導度 :±5% フルスケール
温度 :±1℃
■雨量計
雨量 :±0.5mm (20mm以下の時)
±3%以内(20mm超過時)
サクーでの設置の状況