3. 農民の農薬散布のタイミングと気象局データによる疫病発生危険日の予測
農業生産は局地的な気象の影響を受けます。とりわけ、疫病発生は気象に影響されるために、栽培方法の改善や的確な生産管理を行うためには圃場レベルの詳細なデータを得ることが重要です。
サクーにおける気象情報は、ネパール国水資源省水文・気象局 (Nepal Department of Hydrology and Meteorology, NDHM) から サクーにおける降雨量と近隣にあるナガルコットの気温が入手可能でした。研究会では、サクーの1971-2014の期間のデータで気象概況を把握すると同時に、北海道で採用されているFLABSというバレイショ疫病発生危険日の予測法を適用し、サクーにおける気象が疫病発生に与える影響を考察しました。
× Risky date Possible initial incidence of Late Blight disease
Fig.4. The difference of risky date in summer potato and winter potato
Fig.3は夏バレイショと冬バレイショの生育ステージに合わせた農民の農薬散布行動をFLABSによる疫病危険期到達日および予測初発日の算出結果から検証したものです。サクーの農民は、夏バレイショの場合は培土を終え、およそ3 in(8 cm)の草丈に成長した段階で、初回の殺菌剤を散布します。その頃、農民は「曇りの日が多い」「長雨」といった気象要因に注意を払います。冬バレイショについては、草丈9 in(23 cm)を目安に殺菌剤を初回散布します。夏と冬の初回の農薬散布のタイミングの違いは、FLABSによる疫病危険期到達日の違いと基本的に一致しています。すなわち、夏バレイショの初回散布は生育の初期段階で実施され、冬バレイショはより成長が進んだ段階で実施されています。
農民は夏バレイショと冬バレイショとで、疫病の発生度が異なることを把握しています。2013年3月に実施した指導開始前の事前ヒアリングでは、農業改良普及員の経験がある農民リーダーから「冬バレイショは減農薬が可能だが、夏バレイショの場合は疫病にかかった際の減収量が大きく、農薬散布回数を減らすことは難しい」との意見がありました。アンケートの結果では、夏バレイショの農薬散布回数が農家で大きく異なり、培土後の散布回数の違い(分散)が大きいことを示しています。したがって、夏バレイショの場合、適正に利用することによって農薬を減らす余地は大きいと推察されます。