ネパール・サクーにおけるバレイショ疫病発生危険日の予測
NPO農業開発研究会
カトマンズの近郊農村では、十数年前にバレイショ疫病(ネパール語ではDharwa)による被害を経験し、これをきっかけに殺菌剤マンゼブMancozebが使用されるようになりました。マンゼブは野菜の病気の万能薬として、よく使われている一方、米国EPAが不妊に影響するとして、注意喚起している農薬です。したがって、ネパール農業においても、最新の知識をもって対処すべき課題です。
農薬の使用が健康に与える影響は長い期間にわたり潜在し、顕在化した時には、その損失は甚大かつ長期にわたる可能性があります。加えて、地域に適切な情報をもたらすためには、その地域に固有の農業生産の環境(気象・土壌・水利など)を継続的に観察する必要があります。
農業開発研究会は2014年からサクー(Sankhu、現Sankharapur Municipality )において、防疫のための農薬の適正な使用に関する総合的な技術指導を実施しました。サクーの住民、農家グループと協力し、タネイモの生産技術の習得、疫病観察圃場の設置、適正なタイミングで農薬を使用するために必要な気象情報の収集活動を行いました。
バレイショの疫病は圃場レベルの気象観測、疫病発生の観察、農家の栽培法の改善によって対策可能です。バレイショ疫病の発生には、気温、相対湿度、降雨量などの気象要因が大きく影響します。したがって、私たちは、ネパール水資源省水文・気象局が観測したサクーの日平均気温と日降雨量に関するデータを使用して、農業気象の疫病発生への影響を検証しました。この知見をもとに、農家の協力を得て、圃場に近いレベルでの気象観測を開始しました。2016年にはこの観測データを使用して、FLABSという方法で疫病発生危険日を計算することができました。
2018年10月には、サクーに気象観測データの自動送信が可能なフィールドサーバNexagを設置し、圃場レベルの気象情報の収集を開始し、リアルタイムで疫病発生危険情報を提供することを目標に実証試験を続けています。NEXAGを設置してから、標準仕様のバッテリーをカトマンズで購入できない、充電不足、通信環境が基準を満たさないなど、さまざまな問題が生じましたが、サクーにおける圃場レベルの気象情報の利用は実用の域に入りつつあります。
近年、カトマンズにおける通信環境は格段の進歩を見せています。フィールドサーバを使用した圃場レベルの気象情報は日々の営農活動に役立ちます。気象情報と営農情報を記録し、蓄積することで、農業生産力を高め、人と環境にやさしい持続的農業を達成することができます。本報告は、BLITECASTというバレイショ疫病発生危険日の予測法を適用して、サクーにおける適正な農薬使用について考察します。