5. Sankhuにおける疫薪初発危険日の予測の試行
2017年からはフィールドサーバをSankhuに設置し、圃場レベルの毎10分の自動計測を開始し、相対湿度を取得することで、BLITECASTによる予測が可能になりました。これはネパールにおける初めての試行でしたが、現地の通信状況の影響、またバッテリー問題など、データを継続的に得られない諸問題が 生じました。2020年にバッテリーを自動車用12vバッテリーに置き換えるなどの対策をとり、Nexagのセ ンサーの精度を上げて観測し、実用化への目途が立っております。
以下は、2020年度以降のデータを使用したBLITECASTの適用結果です。
2020年
2020年のSankhuの冬バレイショと夏バレイショ期間のDSVの推移を示したのが下図です。1月21日から センサーを強化したNexag改良機の設置作業を開始しましたが、自動車用バッテリー使用への切り替え作業に時間を要し、データ送信が安定したのは2月2日でした。Sankhu中流域での冬バレイショの発芽は 2月初めですので、2月2日からのデータを使って、中流域の疫病発生を予測することが可能です。DSV は小さな値で推移し、18を超えることはなく、気象条件による疫病発生の危険性はないことを示してい ます。
Fig 7. Wisdom Severity Index:Sankhu,February 02-Apr 30 ,2020
夏バレイショについては、9月20日~27日に気象観測がフィールドサーバの通信Simの課金不足が原因で中断したために、予測期間は9月20日以前に限定されました。上流地域でもっとも早い夏バレイ ショの発芽日9月1日から、わずか18日でDSVが18たなっています。
Fig 8. Wisdom Severity Index:Sankhu,September 01-20 ,2020
2021年
2021年はフィールドサーバーは順調に稼働し、通年の気象横側データを得ることができました。これを使用して冬バレイショと夏バレイショ期間のDSVの推移を比較することができます。2020年と同様に、冬バレイショと夏バレイショの生産期間では疫病発生の気象条件が大きく異なることがわかります。
冬バレイショの種イモ植え付けは上流部から始まり、早霜を避け、早い圃場では12月中・下旬に植え 付けます。その後、下流域に向かって徐々に植え付けされ、遅いところでは2月に植え付けされます。 発芽は上流部では1月初旬、中流部では2月初旬になります。冬バレイショの生産期間においてDSVが 18を超えることはなく、気象条件によるバレイショ疫病発生の可能性はほとんどないことを示しています。
Fig 9. Wisdom Severity Index:Sankhu,January 01-Apr30 ,2021
夏バレイショは、 最も早く植え付けされる上流部の圃場では、8 月下旬に水稲収穫直後に排水が不十分のまま、一刻を争うかのように、畝をたて種イモを植え付けます。高温に対処するためか、稲わらで日光を遮蔽するなどの工夫をして、発芽を促進する農民がいます。このような開場で9月1自に発芽したとすると、2適間後の9月15日にDSVは18を超え、疫病発生初発の予測日に到達します。
発芽日を順次遅らせて、9月15日,9月25日に設定してDSVの推移を示したのが次の2つの図です。15日に発芽した場合は9月1日に発芽した場合と同様、2逮間で18を超えます。9月中は相対湿度が80%を超える日が多く、平均気温も高い日が続き、夏バレイショの疫病リスクは非常に高いことを示し ます。
したがって、水稲収穫後、高温多湿の条件の下で作付けされる夏バレイショの疫病感染リスクは高いと結論できます。但し、30°Cの気温が一定時間続くと菌が死滅する条件は、ここでは考慮していません。高温にもかかわらず、湿度が低く心地よい日を何度か経験したことがあります。こうした気象条件が疫病発生の阻害要因となることは、Sankhuに固有のプラスの条件であり、フィールドサーバーによる長期的な気象観測によって明らかにする可能性が残されています。
種イモの植え付けを遅らせ、発芽日が25日になった場合、DSVが18に達するまでには1ケ月ほどかかり、疫病発生リスクはかなり低くなります。作付けをさらに遅らせ、10月に植え付けると、疫病発生とは別のリスク、初霜被害による生育辞書の可能性があります。 カトマンズのカリマティ野菜卸売市場のバレイショ需要の季節変動は、海外からのトレッカー・観光客が増加する11月頃の出荷が望ましく、かくして、夏バレイショの生産は、疫病リスクを周到に管理することが必要とされます。
Fig 10. Wisdom Severity Index:Sankhu,September 01-Dec10 ,2021
Fig 11. Wisdom Severity Index:Sankhu,September 15-Dec10
Fig 12. Wisdom Severity Index:Sankhu,September 25-Dec10 ,2021
2022年
2022年についても、2021年と同様の結果が得られます。
Fig 13. Wisdom Severity Index:Sankhu,January01-Apr30 ,2022
Fig 14. Wisdom Severity Index:Sankhu,September01-Oct 02 ,2022
2020-2021-2022年のDSV比較
夏バレイショ疫病の3年間のDSVを比較したのが下図です。9月1日を発芽日として予測されたDSVが 18に達する日は年によって1週間毎度の差があります。
Fig 15. 2020-2021-2022年のDSV比較: 9月1日を種イモの発芽日とした場合
Table 4. DSVの年次間比較