2. Sankhuのバレイショ栽培と気象概況
Sankhuは、ネパールの首都カトマンズから東へ17km、サリナディ川の扇状地に位置し、ネワールの伝統と文化が息づくムラである。
Fig.1 Sankhuの位置
Sankhuがバレイショの主産地(Pocket Area)となったのは、1978年に始まったSwiss Develqpment Coperation Nepl(StX:/N)によるバレイショ品種改良事業で、2、3戸の農家が栽埠協力 者として品種の地方適正試験が行われた影響が大きい。しかしながら、バレイショの作付面積が増加し たのは1990年代になって、欧米からの観光客が増加する11月頃に、カトマンズのバレイショ市場価格 が高騰した頃である。
Fig.2 Cropping calendar of major crops in Sankhu
Sankhu村においてはほとんどの圃場で、雨季に入るとともに水稲栽培を開始、移植後約3ケ月日に 収穫する(Fig.2)。夏バレイショ栽培ではイネの収穫後直ちに畝立てしてバレイショを播種、2-3ケ月 後に収穫、その後、引き続き唾を作り直して(畝立て位置をずらして)、あるいは裸地で冬バレイショ を栽培し、本格的な雨季開始前に収穫する。栽培面耕割合は夏バレイショで約4咄、冬バレイショで約 90%である。 コムギ作は約l(瑞であり、夏バレイショを栽培しない圃場は裸地である。
作物栽培の圃場はSaliNadi川灌漑水系に属するが、潅漑設備が十分に機能しないため全圃場面積 に十分な潅漑水を供給できず、水稲栽培(イネの湛水栽埠)は上流側から開始され、雨季が進むにした がって下流側に移る。このため、夏バレイショ栽培開始は上流側で早い傾向があろうが、2次~3次 水路の状況、地形、近年のポンプ潅漑の利用や農家の労力配分との関係で、下流側で多いということは ない(2015/10視察結果)。5月中旬に田植えが可能な圃場では、9月初めに水稲を収穫し、その直後に 種イモを植えつける。そして11月の高い市場価格での収穫を目標にしたのである。これが夏バレイショ である。これに対して12月下旬から1月初旬に植付け、3月下旬以降に収穫するのが冬バレイショである。自給的な農業であったSakhuで、バレイショは重要な換金作物となったのである。バレイショの2 期作が可能な圃場の土地生産性は、伝統的な水稲ー小麦の作付け地の2.7倍に上昇した(近藤他, 2000、2000)。カトマンズの人口増加とともに野菜市場の需要は拡大し続けており、バレイショ以外の 野菜、トマト、カリフラワーなどの作付面積も徐々に増加している。
Photo 1 櫛状高畝灌漑
夏バレイショ、冬バレイショの名称は現地における呼称、barkhe alooとhiunde alooの訳語であり、 イネ(雨季栽培)の収穫直後、または、間もなくに栽培される例が前者、冬季(乾期・寒期)に栽培を 開始するのが後者である。たとえば1月に収穫される場合はすべて夏バレイショである。一方で、12 月に播種しても夏バレイショとは呼ばず、冬バレイショと呼ぶ。夏バレイショは9月中旬~10月中旬 に栽培面耕のほぼ80%が播種され、それらに比べて10日間ほど早い例、あるいは遅い例もそれほど 珍しくない。2016年10月中~下旬において著者期に達した(一部は開花初期であったが、開花盛期に 達した圃場は皆無であった)圃場面積割合は20-30%であった。
2016年の夏バレイショ播種の最終日は10月下旬早々であり、これ以上遅くなると塊茎肥大期が低温期に入り、12月~1月には霜害が発生しうるので、妥当な判断である。夏バレイショはイネ収穫後、通常速やかに(数日間内に)播種される。しかし、イネ収穫から夏バレイショ播種までの期間は、当日 (イネを収穫しつつバレイショ唾を造成)から1適間程度までの幅がある。その長短は労働力が確保で きるかどうかにも依存している。
播種から萌芽(50%)までの期間は、夏バレイショ栽培では高温のために約1週間、冬バレイショ栽 培は低温であるため3過間~1ケ月間である。灌漑回数は夏・冬バレイショ栽培とも3-4回である(2015/10聞き取り 要確認)。稲わらの一部は家畜飼料として圃場から持ち出される(Newarは宗教上 の理由で牛を使役に使わないので、牛の飼育は一般的でない)が、大部分は圃場の一部に堆積、堆肥化 させ、また、夏バレイショの残澄も堆肥に入れ、それら全量を冬バレイショ栽培に際して圃場にすき込 み、また、化学肥料を投与する。夏バレイショ残漆の堆肥化期間が短く病原菌の消長が危惧されるが、 冬バレイショ播種後のしばらくの期間は低温のため萌芽期までの期間が長く、その期間に廃熱が進むの であろう。なお、水稲栽培においては堆肥・化学肥料の施与はない。夏・冬バレイショ栽培にあたって は化学肥料を施与し、また、殺菌剤の散布とともに、微量要素・ホルモン剤が散布されている。夏バレ イショの塊茎は高温・降雨が多いため水分含有率が高く種イモとはならず、冬バレイショの塊茎が両期 の種イモとして利用される。
農民は夏バレイショと冬バレイショとで、疫病の発生度が異なることを把握して いる。指導開始前に 農民リーダーから「冬バレイショは減農薬が可能だが、夏バレイショの場合は疫病にかかった際の被害(収量減)が大きく、農薬散布回数を減らすことは難しい」との意見があった。アンケートの結果では、 夏バレイショの農薬散布回数が農家で大きく異なり、培土後の散布回数の分散が大きいことを示してい る。