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1.バレイショ疫病発生危険日の予測方法:BLITECAST – WISDOM


 欧米では大学の農業普及センターを中心に、バレイショ疫病研究と対策のためのネットワークが形成されています。1970年代に気象情報を利用した多くの疫病予測システム 注)が開発されました。日本では、北海道で開発されたFLABSによる疫病危険日の初発予測情報が利用されています。

注)U.C.Davis普及センター (https://ipm.ucanr.edu/DISEASE/DATABASE/potatolateblight.htmlDavis)参照

 ここでは、疫病予測システムBLITECASTをベースに開発され、ワシントン州立大学を拠点に稼働している予測システムWISDOMで予測します。ちなみにワシントン州は農薬耐性菌が米国で初めて発見された地域です。

 まず、Table 1をもとにDSV(Disease Severity Value)を求めます。DSVの累積値が18になった時が疫病初発危険日で、この日が農薬の初回散布のタイミングになります。WISDOMはBLITECASTのSeverity value の評価表に、ワシントン州地域の固有の気象が疫病に与える影響を反映します。Table-1の脚注に、その固有の修正値が示されています。

Table 1  Adjustable matrix used to relate severity values (Wallin’s system) and rain-favorable days (Hyre’s system) for BlLITECAST

 次に、初回散布後の散布間隔を決定する判断基準がTable2です。過去10日間の累積降雨量と過去1週間のDSVによって、農薬散布の間隔日数を5日から2週の間で選択します。

Table 2  WISDOM fungicide spray interval recommendations; adapted from Fry(1978)

BLITCASTによる予測には、以下のような変数を使います。

 1.疫病初発危険日(農薬の初回散布日)の予測、

Hyre Criterion (相対湿度90%以上の持続時間と平均気温による発生危険指数の計算)

1) 相対湿度90%以上の持続時間の計算

2) 平均気温 Temperatureの算出

3) 湿度90%以上の持続時間と平均気温によるTable-1によるDSVの判定

4) Severity Indexの計算(DSVの累積値の計算)

5) その他の条件(気温が30℃以上の持続時間など・・・)

2.農薬散布の間隔(回数)の決定

Wallinの第2基準(散布間隔の決定)

1) 10日間の累積降雨量(灌漑水量)

2) 累積降雨量3.048cmの判別基準と前7日間のDSV

 Inglis(2017)によれば、WSU-Mount Vernon NWRECの13年間のバレイショ疫病観察期間において、予測の成功確率は、疫病初発日lesion onsetについては58%、疫病感染拡大disease spreadについては92% であったと評価しています。そして、とりわけバレイショの有機生産農家において効果があったと結論しています。

 局所的な気象の特徴を生かす農業は、その地域をより価値あるものに変化させます。このために気象と疫病の発生状況に関するデータを地域で蓄積することが必要です。フィールドサーバはこの蓄積を助け、Table1の「修正」を可能にします。

 RGAD農業開発研究会(2022)では、Nexagのデータを使用した第一段階の疫病初発危険日の予測プログラムを公開しています。今後、地域固有の気象条件による修正を加えることで、より精度の高い予測ができ、農薬に過度に依存しない営農が可能になります。

「修正」のためには、以下のような実験室内で確認された疫病菌の生育好適条件が参考になります。実験室での知見は、それぞれの地域の観測圃場の疫病発生状況と気象観測によって、より確かな疫病予測につながります:

1.菌糸身長温度帯 は4~26℃(最適20℃)

2.遊走子放出温度帯は2~25℃(最適12~13℃)

3.培養菌は乾熱処理30℃×6時間、40℃×4時間で死滅

4.温湯処理30℃・35℃ではごく短い時間(数分?)で死滅

5.遊走子嚢は常温(20℃前後)でも3週間後死滅

 ただし、4について、露地圃場で30℃を超えた場合、すぐに全滅とまではいきません。病斑の拡大は止まりますが、その後降雨と適温があるとまた少しずつ病斑が拡大します。他の作物、ビートの作付け圃場内の気象観測事例では、葉面は蒸散作用によって気温より若干低い温度となることが示されています。馬鈴薯葉面でも似た現象があり、気温が30℃となっても葉面はもう少し低い温度となり、疫病菌がエスケープする可能性があります。35℃くらいの気温になると明らかに死滅します―ただし薯も弱ります。上記の30℃条件については北海道における有効性が検証しています(池田・森岡・近藤(2016))。

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