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7-2 提言

 疫病は農民にとってよく知られた病害であり、技術指導によって、その病徴も正確に認識され、ジャガイモ栽培期間中は朝晩2回の巡回が奨励されていることなど、疫病に対する関心、意識は高くなりつつある。一方で、農薬散布作業時の装備などには、まだ多くの問題が残されている。

 これには農薬の安全性のテストがあまりに高度な科学の領域にあって、特定の農薬の安全性を判断できないためでもある。こうした状況では、必要最小限の農薬散布にとどめる必要がある。

 この技術指導を通して、サクーにおける疫病対策の戦略として、農民各自の疫病(巡回)調査を基盤とし、農民各自の情報収集と情報の「見える化」を通信技術によりサポートする体制を構築することを提言する。具体的には以下のとおりである。

(1)疫病防除意志決定サポートシステムの実装

 疫病発生予測システムFLABSのバージョンアップ、ソフトウェアの開発による発生危険日の予察精度を上げることで、疫病発生好適期間の絞込による巡回調査作業の効率化を図る。このためには、天気予報と同様に少なくとも1週間後の感染好適指数を予報できるようにすることが必要である。

(2)自動気象観測システムの利用

 各種気象要素を観測するシステム(FLABSのためのデータ利用可能な製品)を導入し、自動化を図る。ただし、気象観測システムの設置場所、メンテナンスのための地域内の組織作り、取り決めが必要となる。どのくらいの規模(精度、価格帯)の機器を導入するか検討する必要がある。

(3)データ通信アプリケーションの開発、利用

 病徴が現れたジャガイモの画像情報を位置情報、日付情報とともに情報センターにスマートフォンから発信できるように専用アプリケーションを開発する。上記情報を地図上に貼り付け、各々の情報機器において表示できるようにする。また、集落の中心部に設置したモニターへ配信して多数の人がリアルタイムで見られるようにすることも考えられる。

(4)圃場巡回の奨励、検診の組織化

 圃場における初発時期の把握の重要性の認識を共有するための啓発活動を行い、そのための組織をつくる。各自が圃場を巡回し、発見した病徴の写真を発信することにより、情報が共有され、各自の薬剤散布の意志決定をサポートする。

 疫病予測法の開発は、公的な研究機関が担うべき性格のものであるが、通信環境が急速に整備されつつあるカトマンズ近郊農村の環境を前提にすれば、農家グループの自主的な活動を軸に持続可能な農業を構築することは可能である。サクーの農民が疫病自体をよく理解すれば、農薬の適正な使用は難しいことではない。さらに言えば、このシステムは、各自の圃場観察を重視し、全圃場調査で得られた疫病発生の情報をインターネット技術により集積することにより「見える化」を実現するアナログとハイテクのハイブリッドである。疫病菌の伝播速度、範囲、発生様相を考慮すると、各自の圃場だけで完結した防除対策ではなく、サクー地域全体を対象にした対策が重要で、各自が見つけた疫病発生情報の発信による緻密な病害発生情報の「見える化」が、サク―におけるジャガイモ疫病対策、そして安心できる食料供給地としての確立に最適であることは疑いがない。

 今後の活動について: 農業開発研究会およびCENEEDはスンカラプール農業グループが中心となって実施する農業気象観測および予察圃での観察を支援する。現場での指導とともに、農家のインターネット利用環境を整備し、FacetimeやSkypeを利用したTV会議による定期的な指導を実施する。スンカラプール農業グループによる種イモ生産の経営技術的支援を通してネパール国内の農薬登録制度との整合性、防疫規制など法的問題の解決、実効性を検証する。

 観測データの精査とデータベース管理を実施し、CENEEDを中心として、NARC、トリブファン大学などの作物・疫病研究者、ネパールの環境技術系大学の協力関係を維持し、サクーの農薬の適正使用を推進する。

写真29 スンカラプール農業グループの認定証

写真30サクーの農家とともに一歩、前へ

 2016年8月に実施したサクー農家の短期招聘研修では、バレイショ疫病対策として農業試験場-農業改良普及所-農家との連携、農業気象情報の先端的取組み、農家の有機野菜生産の取り組みを視察した。帯広市の飯田農場においては、最新の気象観測通信装置、フィールドサーバーによる圃場レベルでの気象データ活用の最先端の取組みを視察し、サクーで気象情報を観測し、利用することの重要性を理解してもらった。また種イモ生産システム(原々種農場-農協-農家の連携)について、病害対策、圃場の物理的配置、経済的な相互補償の観点から、帯広市大正地域の取り組みを視察・研修した。

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