7. サクー農業の持続性のために: 疫病防除体制の構築へ向けて
7-1 疫病予察情報と農薬使用の適正化
2016年夏バレイショ作では、広範囲に疫病の発生がみられた。このため、農民の関心が高く、サクーの気象データを使用してFLABSによる「感染好適指数」を算出し、農薬散布の初回のタイミングを最適化する方法を具体的に示すことができた。2016年8月末の日本での農民2名の短期研修の際に、気象データを観測する重要性について、試験場の疫病予察圃、予察情報を発信している農業改良普及所、フィールドサーバーを導入した先進的農家の圃場を訪問し、説明した。Sundarら (2016) は「なぜ気象観測が重要なのか、初めて理解できた」と報告したように、FLABSのような新しい情報に基づく警告や判断情報を、どのように農家に発信するか、その際に彼らの経験をどのように生かすかは、始まったばかりである。
技術指導期間の観測にもとづいた防除のフローチャートはFig.29のように描くことができる。農薬の最適な使用、防除の判断には大きく3つある。まず、毎日の気象データでFLABSなどによる疫病の感染好適指数を算出し、その閾値(FLABSによる感染好適指数21)になった時、自動的に警報を発する。リスクをゼロにしようとする農家は、ここで初回の散布をするかもしれない。この部分はルーティン化可能であり、今後、フィールドサーバーの普及や疫病初発日の予測法の改良により、予測精度は大幅に向上する可能性が大きい。
これから重要になるのは、農民の初回散布の判断をリアルタイムの気象情報によって支援する第2のステップである。たとえば週間天気予報を利用して、農民自身が初発日を1日から2週間程度のレンジで判断する;明日、降雨が予報されれば、すぐに散布しなければならないが、降雨がない場合は、防除回数を減らすことができる。
サクーの夏バレイショ生産では、疫病危険期までの期間は萌芽後2週間程度で短いが、年々異なる気象パターンに応じて、農家の経験から判断することは可能であろう。マンゼブによって疫病が制御可能であることは明らかで、農民が朝、夕、バレイショの生育状況を注意深く観察し、一葉の病変を見つけてからでも、丁寧な殺菌剤散布をすれば防除効果がある。いたずらに不安から予防的防除をするのではなく、以上の二つのステップで判断することが望まれる。
この二つのステップに加えて、地域の誰もが観察可能な疫病観察圃場Dharuwa Plotの設置が有効である。その面積は1aana程度でよい。技術指導では観察圃場を設置し、無農薬状態で萌芽日を観察し、疫病初発日を記録した。これによって、慣行栽培に対する見直しができた。疫病観察圃を農家グループで維持することは、それほど難しくない。初発日の記録が目的なので、初発日を観測した後に殺菌剤を散布することも問題ないであろう。なにより観察圃の設置によって、サクーにおける疫病発生の気象好適条件を明らかにし、より良い予測法の開発をすることが必須である。
以上、3つの組み合わせによって、ローカルノレッジ、サクーの知識データベースが構築され、顔の見える村全体での疫病の制御モデルができる。これは集落単位で実行可能なシステムで、疫病を地域ぐるみで制御する最初のステップとなる。