5.サクーにおける気象観測と疫病予察圃の設置
5-1 サクーでの気象観測の開始
ネパールではこれまで疫病対策に気象情報を利用した経験がなく、またローカルな気象情報を利用できなかった。サクーにおける疫病発生の好適気象条件を、農民が知ることができれば、無駄な農薬使用を避けることができる。FLABSの方法は適用が簡単であり、農家自らがサクーの気温、降雨量などの気象を観測することによって、疫病初発危険日を予測することが可能である。農民の経験知識を気温や降雨量という客観的なデータで裏付け、年々異なったパターンで現れる気象状況に応じて疫病初発日を予測し、多くの農民に注意を喚起することが可能である。また「疫病初発日」を観察・記録する予察圃場を設置すれば、気象情報の利用法を大きく改善できる。
FLABSシステムを適用するために必要な気象情報は、以下のようである。
(1)日平均気温、最低気温( 0.1 ℃単位)
(2)日降雨量( 0.5 mm単位)
(1)経緯と設置場所、記録の担当者など
毎日定時に観測し、継続した記録を得ることは簡単ではないが、農民参加型に不可欠な要件は自ら測り、記録することである。草の根技術指導(支援型)の場合、現地で調達可能な資材機器の使用を前提にしている。気象観測には以下の機器を使用したが、観測の精度はFLABSが要求する精度よりやや劣る。観測装置一式の費用は、現地での設置費用代などを含め、総額およそ8万円であった。
a. 温度計(最高・最低温度計他)
b. ハイグロクロン温湿度ロガー(精度:温度 ±0.5 ℃、湿度 ±5 %)
c. 簡易雨量計CEM-TBRG(補正後精度:0.25mm)、自作カウンターディスプレイ装置
d. 簡易自然通風シェルター、CO-RS1
機器の設置場所は、現地の農業リーダー、記録担当責任者と協議のうえ決定した。紛失を避け、記録者の利便性などを考慮した結果、屋上へ設置するなど、通常の気象観測の環境とは異なっている(設置の位置については図7参照)。日平均気温を最高、最低気温の平均値として算出可能であるが、同時に、データロガーを併用し、観測が中断することがないようにした。データロガーの寿命は仕様書では3年になっているが、観測中断のリスクを避け、現在は1年を目途に交換することにした。さらに2016年11月から小型フィールドシェルターをバレイショ生産圃場内の地上部15cmに設置し、圃場レベルでの気象観測を開始した(写真17)。降雨量は転倒マス式(1パルス0.2mm)に自作カウンターディスプレイ装置を加え、記録した(ただし、計量による補正を行った結果、1パルス0.25mmとする)。
農民自身による気象観測活動に重点を置き、観測は農民グループが担当、その責任者はリーダー農家とした。なお、小型のフィールドシールド内に設置したデータロガーを取り出し、パソコンにデータを取り込む作業についてはカウンターパートであるCENEEDの責任で実施した。
データロガーは、アルミ箔で遮蔽するなど、当初から簡易な方法で使用した。今回、採用したデータロガーはボタンタイプで測定値のディスプレイがない。このため、農民自身がその時、その場で気象データを読み、自ら疫病発生に好適な気象条件であるか否かを判断する、「学習」効果が期待されないという難点があった。このため最高・最低温度計による記録を並行した。発生した地震という不測の事態は別にして、日々の気象観測記録の継続は、祭事や催事に観測者がサクーを留守にする際の措置など、細かなバックアップの体制を整える必要があり、その意味で、現地農家の気象観測記録の達成度は高かったといえる。
なお、2015年4月25日に発生したネパール地震(M7.3)、5月の余震による被災という不測の事態によりデータ収集が一部、継続できなかった。このため、FLABSによる疫病発生危険日の予測は2016年の夏バレイショの生産期間から開始した。
写真20 雨量計の設置場所(1)
写真21 雨量計の設置場所(2)
写真22 データロガーからパソコンへの取込み
写真23 簡易シェルターを使って圃場のデータ取得
写真サクーにおける気象観測機器の設置と農家による記録