4-2 ネパール気象庁の観測データとその利用方法
長期間にわたる気象データ(降雨量と気温)にもとづく危険日の予測情報は、農薬の適正利用を図るうえで、重要な基礎情報となる。Sankhu 村における 1971-2014 年 (44 年間) の気象条件に基づいて、FLABSの方法を適用して疫病発生の危険期到達日数を算出した。これによってサクーの農業気象の特徴を明らかし、現在の農民の農薬使用技術を検証することができる。
ネパールで多くの観測所で気象が観測されるようになったのは1970 年以降である。Nepal Department of Hydrology and Meteology (NDHM)という機関名が示すように、気象要素として水文に大きな重点をおき、洪水対策、水資源の把握に有用な主要河川の流量調査なども実施している。観測所総数は降雨量で 約 340 個所、気温で約 140 個所であるが、一部で観測を中止し、現在の気象観測所数は 282 である。降雨量に比べて気温やその他の要素を観測している観測所数は少なく、また、気温平年値 (1981-2010) を発表している観測所数は 15 である。カトマンズ空港などの特定の場所では気温、降雨量に加えて、湿度、風力・風向、蒸発量、気圧、日照時間、日射量なども観測している (http://www.dhm.gov.np/ 参照)。
1998 年までの降雨量は冊子NDHM( 1999, 2001 )に印刷され、それ以降は、電子ファイルで、日降雨量・気温・相対湿度について要素ごとにNDHMから購入することができる。サクーはネパール気象庁の降雨量観測地点であり、1971年から降雨量データが利用可能である。降雨量測定器の設置場所を現地で確認したうえで、日降雨量データを入手した。ただし2016年の一部は雨量計の故障で欠損している。気温データはサクーで観測されていない。したがって、近隣のカトマンズ空港の気温を利用した。データ補正の必要性については山口(2016)を参照されたい。
疫病初発予察システムFLABS (北海道)の感染好適指数の算出方法を適用し、上記のNDHMの気象観測データを利用して、1971-2014 年の期間のサクーにおける「感染好適指数」が21以上になった日数、疫病の危険期到達日数 (NDr: the number of days from plant emergence to the risk of potato late blight incidence/outbreak) を算出した-北海道病害虫防除所(2015)参照。なお、降雨量または気温が日単位で欠損していた場合には、原則として前後のそれぞれ 2 日間 (合計4日間) の平均値で補間した。またバレイショ栽培期間において 1 ヶ月単位で欠損値があった場合には、危険期到達日数を算出しなかった。
夏バレイショ生産期間において、平均気温が26.6 ℃以上となる日数はそれほど多くなく、その発生は 8 月上旬のみであった。したがって、夏バレイショのFLABS感染好適指数の算定方法(5)の適用例は少なかった。実験室内の環境下では、30℃以上が30分続くと菌は死滅するが、サクーでは高い気温によって疫病発生が抑えられる条件になかった。
一方、冬バレイショ生産期間の12, 1, 2 月ではほぼ連日にわたって、最低気温が 7.2 ℃未満で、かつ平均気温が 7.2 ℃以上であった。しかし、同時に前 5 日間の降水量の合計が 30 ㎜ 以上となったのは、対象とした 44 年間のうち 17 年間であった。主に 2-3 月に発生 (低温と多雨との両方が発生) し、発生年次における発生日数は 2-10 日間/年 (平均 5.2 日間/年) であった。したがって、FLABS感染好適指数の算定方法(3)- 最低気温が 7.2 ℃未満、平均気温が 7.2 ℃以上、前 5 日間の降水量の合計が 30 ㎜ 以上 - の条件を少なからず発生させ、感染好適指数の算定においてそれなりの影響を与えた。