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4. ネパール気象庁のデータによるサクーにおける疫病発生危険期の算出

4-1疫病発生予察システム

 バレイショ疫病菌には、気温、湿度、降雨などの要因による菌の発生・増殖の感染好適気象条件がある。Fry (2007) によれば、 降雨、結露、灌漑、霧、雲がもたらす湿度、とりわけ葉面の濡れた状態が8~12時間続くことが重要である。温度は15℃以下の低温、25℃以上の高温が菌の成長を抑制する。国際バレイショ研究所 ( CIP ) のPerez(2010)によれば、菌の成長は気温:15~21℃、相対湿度80%以上が好適である。このような気象好適条件をもとに疫病発生時期を的確に予測すれば、農薬散布を適期に開始することができ、環境への負荷を減少させ、生産費用の低減にもつながる。このため、欧米では1950年代から疫病の発生予測にもとづいた散布時期の決定システムが数多くある。

 北海道では1950年代から疫病予測に気象情報を利用する研究がなされ、1960年代に米国で開発された方法を参考にして、疫病発生予察システム FLABSを開発、農業普及所を通して栽培農家へ周知する行政システムを1991年に確立している-北海道立中央農業試験場病虫部・発生予察科(1991) 参照。池田(2016)によればFLABSは、1991年当時の地域気象観測システムアメダス (AMeDAS, Automated Meteorological Data Acquisition System) の情報利用を前提に、Hyre (1954) をベースにWallin (1953) のSeverity valueパラメータの考え方を付加して作成された。具体的にはWallinと同じ平均気温区分を使用し、Hyreの前日までの10日間の降水量合計ではなく、前日までの5日間の降水量合計を区分して用いている (Kraus,1975) は平均気温と相対湿度90%以上の継続時間【0~4時間の5段階】の組み合わせで配点する)。

 FLABSの気象データは道内各地で使用できるアメダスデータを使用し、以下の目標が設定されている。

  • 初発を見逃さないシステム
  • 簡便で迅速な処理が可能

 予察情報は、なによりも「初発を見逃さない」ために、各地域の農業改良普及センターを通じて発信されている。現時点のサクーでは、生育ステージで判断し、初発を見逃すことを恐れて、第1回の殺菌剤散布のタイミングが早すぎる可能性がある。ネパールでは、これまで農家が気温や降雨量、湿度といった気象データを利用する環境になかった。しかし、「雨が降り続いて、農薬を散布できないときに疫病が発生しやすい」、「曇りが続くと注意」、「低温のときにも発生する」というように、疫病発生に気温、降雨、曇天などが大きく影響することを知っており、農民は気象に最大限の注意を払っている。気温、曇天時の湿度の感じ方は、個々人によって異なり、感覚を共有することは難しい。したがって、次頁に示すように、雨量、気温をもとに簡単に迅速に算出できる感染好適指数は、農民に受け入れられやすいであろう。

   FLABSの感染好適指数の算定方法 (北海道病害虫防除所(2015)による)

 北海道病害虫防除所は、疫病初発予察システム (モデル) (FLABS) を発表している。気象データのうち、最高気温、最低気温、平均気温、降水量の 4 要素を用いて、疫病の感染好適指数を算出し、危険期到達日を予測するシステムである。感染好適指数の計算は萌芽日から開始し、その累積値が 21 に達した日を危険期到達日とし、その日を基準に初発日を予測する。気象データはAMEDASを利用している。

Ⅰ 「感染好適指数」の算定方法 

(1) 1日の平均気温が26.6℃未満でかつ最低気温が7.2℃以上の場合、以下の区分に従って感染好適指数を割り当てる。(ただし、平均気温は最高気温と最低気温から求める。)

 (2) 上記の表で感染好適指数が 0 であっても、当日0.5㎜以上の降水があり、平均気温が7.2℃以上の場合、

感染好適指数を 1 とする。

(3) 最低気温が7.2℃未満であっても、前5日間の降水量の合計が30㎜以上で、平均気温が7.2℃以上なら、

感染好適指数を 2 とする。

(4) 感染好適指数の累積値が5以下の場合で、前10日間の降水量の合計が0なら、

それまでの累積値を 0 とする。

(5) 平均気温が26.6℃以上の日は感染好適指数のそれまでの累積値を 0 に戻す。

Ⅱ.利用上の注意点

  1. 感染好適指数の計算は萌芽日から開始し、その累積値が 21 に達した日を危険期到達日とし、その日を基準に初発日を予測する。「予測初発日」と「危険期到達日」の関係は農業試験場のほ場における永年の観測結果を基に導き出されている。実際の初発日は、その70%が予測初発日の前後5~10日間(=計10~20日間)に収まることになる。
  2. 1992-1994年に行われたFLABSの現地実証試験において「危険期到達日」より早く初発する地点が一部で認められた。FLABSはあくまでも初発予測の目安であって、ほ場観察をきちんと行い、適期防除を失しないことが重要である。.

 危険期到達日と予測初発日との関係 

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