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Sankhuにおける殺菌剤の散布方法

  1. 農薬散布方法の指針

 日本国内では府県や JA が農薬散布方法について指針を与えている。要点を整理すると

(i) 暑い日中を避け、涼しい朝夕に散布する

(ⅱ) 風の強い日の散布を控える

(ⅲ) 約 2 時間以内で済ませる

(ⅳ) 農薬の効果を十分に発揮させるには、農作物にムラなく散布することが重要であり、まず葉裏に散布し、その後、表面に上からさっとかける

(v) 昼間の高温時の散布は薬害の発生が心配され、夕方の散布では薬剤が乾かない恐れがある

 早朝の涼しい時間帯 (朝露のあるうち) には下降気流があるので、健康被害・周囲への飛散が少ないことが理由として挙げられている。本州における盛夏の日中は高温であり、肉体的に負担が大きいことも反映していよう。なお、夕方に散布しても正常に効いているとの情報もあり、薬効に関しての適正な散布時刻は不明であった。

 以上、指針の主要点は、下記の3点である。

(1) 散布者自身の健康被害の回避・軽減と体調管理

(2) 農薬の飛散防止 (地域住民への健康被害を生じさせない)

(3) 薬効

2)Sankhuにおける農薬散布の時刻

 Sankhuにおける散布時刻は早朝~午後までマチマチである。午後に風が吹くために、午前中に散布すると答える農民がいる。また気温が上がらないうちに済ませると答える農家が多い。リーダーの一人であるSundar は 3 ropani 圃場への散布に 4 時間かけていると発言しており、群落の発達程度にもよるが、かなり丁寧な散布である。耕作面積が2ロパニ程度である場合、2時間程度で作業は終わることができ、7日おきの散布と合わせれば、丁寧な散布は農薬経費の節減につながる。風向きについて、一部の農民は風上側から農薬散布する意識があるようであったが、バレイショ栽培圃場の櫛形畦の形状から、実際には適用している例はないと見なさざるを得ない。常に風上側に立つとすると散布効率が極めて悪くなる。

 夏バレイショ栽培においては、散布後に降雨があると数日後に再度、散布している例が観察された。マンゼブ成分の農薬は、好天で気温が20℃前後では、散布後2時間で完全に水分は蒸発し、薬剤が葉の表面に固着する(前掲写真10参照)。したがって、乾燥時間が2時間もあれば植物体へ定着し、1週間は有効である。この情報を周知することによって無駄な散布を回避できる。ただし、植物体へ定着したマンゼブの降雨耐性に関する情報を収集する必要がある。

3) Sankhuにおける微気象条件

農薬の散布効果に影響するサクーの微気象条件は、以下のようである。

a) 朝露時における散布

朝露があることによって散布農薬の広がりが期待される可能性はあり、その効果については検討の余地がある。

b) 風 速

 カトマンズ盆地内の年平均風速は、たとえば札幌で 3 m/s であるに比べて、約 1 m/s と弱い。また、夜半から早朝にかけて風速は弱く、正午前から夕刻にかけて強い。月別平均風速は 3-6 月で早く、11-1 月で小さい (図15参照)。したがって、農薬散布にあたりカトマンズ盆地では風速に対してそれほど配慮する必要がないであろう。ただし、日本に比べると緯度が低いので、日中の太陽高度は高く、太陽が昇り出してからの気温の上昇は大きく、これにともない上昇気流が起こる。典型的な例が雨期における天候で、午前中は晴天で、気温の上昇にともなって積乱雲が発達し、午後~夕方に降雨があることが普通である。     

C) 早朝の露

早朝の露は年間を通して認められ、さらに雨期が明け間もなくから、早朝の霧発生が顕著になり、ときには昼近くまで継続することがある。相対湿度が高く維持されるので、疫病発生の好適条件を生む。

図15 カトマンズにおける1日の平均風速

写真19 嫡蕾期のバレイショ

4) 生育のステージと殺菌剤散布

 Sankhuにおける疫病発生はバレイショが着蕾期~開花期に達して群落がほぼ完成した圃場で多い。また農薬散布は、群落上部からの散布であった(前掲写真9)。ここで二つの可能性が考えられた。

(1) 背負い噴霧器による農薬はそれなりの圧力で散布されるので、群落が小さいと薬液は葉の裏側までかかるが、群落が大きくなると、上部からの散布のみでは下位葉、とくにそれらの裏側まで液がかかることはない結果、発達した群落で発生を多くさせている。

(2) 生育が進んだ個体では若い個体に比べて、いわゆる老化の結果、感染し易い。換言すれば、植物体の老若で疫病抵抗性に差異がある。とくに下位葉で多発していることは、養分 (無機・有機成分とも) が塊茎・上位葉へ転流した結果、栄養的に劣っている可能性は大きい。

 (2) に関してバレイショの生育ステージと発病との関連で、生育時期が進んだものの方が疫病に罹りやすいと解説書(北海道、2014)にあるが、研究室での接種試験ではそれほどの差があるかどうか実感したことはないという。接種試験で生育ステージによる差異を観察していないことは重要な情報である。したがって、現場で生育時期が進んだ群落で疫病が多発していたことは、農薬散布方法に問題があることになろう。

 2016年3月10日~14日の疫病発生調査において、サリナディ上中流地域での発生は見られなかったものの、下流地域の一部ではジャガイモ茎の地際部に病斑、遊走子のうが多数見られる発病株があり、その周辺の葉には病斑が多数見られた。これらは、疫病感染種イモから発病した株から遊走子のうが飛散して伝播したことが強く疑われる様相であった。これら発病茎葉の一部を採集し、ワークショップにおいて疫病菌の遊走子のうを簡易顕微鏡により観察することで、参加者にその実際の形態を確認してもらった。その際に病斑ひとつに数万から数十万個の遊走子のうが形成されるが、これまでの経験から、このような初期病斑を認められた直後からでも、概ね1週間毎の農薬散布により病害進展抑制に有効であることを説明した。

 マンゼブの効果は、夏バレイショ栽培の場合に 1 週間に一回の散布で持続する。また、10 月下旬以降の降雨頻度は極めて少なく、晴天の時間が十分に長いので、散布後の乾燥・展着には問題ない。萌芽後に疫病の初発を見つけることが重要であり、その時点で散布を開始しても制御できる。また葉の裏側に散布することは極めて効果的であり、とくに、群落が大きくなったら、十分な液量を使用して群落全面に散布する必要がある。

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