3-4 農薬の希釈方法と希釈倍数からみた農薬使用量
農薬はインド・中国製品が多く、包装もそれらの国で流通しているままで、農薬の使用上の注意などはヒンズー、英語、中国語などで記され、ネパール語で説明されているものはわずかである。また希釈倍数と面積あたりの散布量が包装パックに明記されているものはまれである。1例をあげれば、Sankhuで販売されている殺菌剤FARMTHOR(ただし、成分はChlorothalonil)の場合、ネパール語による説明はないが、英語で「疫病に適用する場合、acreあたり 427-569 g、出荷前23日までに」とのみ記されている。農家は通常、農薬販売小売店でのアドバイスで農薬散布時の使用法を知る。しかし、希釈倍数を除けば、その情報は不十分であり、後述の日本のジマンダイセンのホームページにあるような散布機材別の希釈倍数と散布回数の上限など、ネパール語による使用法の表示が早急に必要であろう。
農民へのインタビューでは、農民はやや高い濃度で使用しているようであった。販売店、農民からの聞き取りでは、「中国産であるため成分割合が表示値より少ないので増量して散布している」との発言があった。農薬の適正利用を図るうえで、真偽を確かめるために原体の濃度を化学分析で定量することが必須になるが、ネパール国内で検査可能な機関がないため検査できなかった。参考までに、日本での民間機関による農薬成分の分析料金は、マンゼブは8-20 万円、クロロタロニルは2-10 万円であり、農民が高額な検査費用を負担することはできない。ネパールにおける近年の農薬使用量の増加を考慮すると、農薬使用の適正化のために、公的あるいは中立的な専門検査機関の創設と人材育成は、喫緊の重要課題である。
サクーでは背負い式の手動(手押しポンプ)散布機が普及し、バケツで溶いた農薬を箒で振り掛ける方法はほとんど見られなくなった。上方向から葉の表面に散布し、ゴム手、マスクは着用せず、狭い畝間を素足で歩きながらの作業である(写真13)。殺菌剤の散布量については、乾いた時に「葉の表面が白くなるくらい」と答える。白くなるというのは殺菌剤、あるいは添加物が乾燥して葉の表面に付着している状態を示す(写真16)。希釈時にタンクに投入する農薬量はスプーンまたは農薬噴霧器のフィルターを用いて、測っている(写真14,17)。
このような慣行法が適正な希釈倍数と散布量となるのかを検討するために、以下、日本で販売されているマンゼブ有効成分率80%のジマンダイセン水和剤を例として、希釈倍数と農薬重量との関係をみる(参照:http://www.greenjapan.co.jp/jimandaisen.htm)。使用法には、希釈倍数、使用方法、使用時期、使用回数、散布液量、マンゼブを含む総使用回数の項目が記載されている。先進国では、農薬の登録が義務付けられ、生産物への残留濃度を人の健康に害を及ぼすことがなく、また、自然環境へ負荷を与えない範囲を使用基準として定めている。日本の場合、農産物の安全性が確保されるように、2003年3月から、遵守すべき基準に違反して農薬を使用した場合には、3年以下の懲役、100万円以下の罰金が科せられる。
表6 希釈倍数と散布液量の関係(成分率80%の場合)
表7 ジマンダイセンによる使用法の例示
水和粉末剤は重量で秤るのが基本である。ジマンダイセン水和剤(有効成分率80%)の場合、希釈倍数と農薬重量との関係は表6のようになる。400~600倍の希釈倍数の場合、散布液量は10アールあたり100~300リットルである。ジマンダイセンの重量は約120~360グラムになる。マンゼブを含む農薬の総使用回数は10回以内、残留基準に関しては収穫7日前まで使用可能となっている。ネパールでは計量さじは一般的ではなく、大さじ山盛り1杯の重さを計量器で秤り、それを目安にするよう指導した(写真17、18)。計量さじの場合は摺り切り一杯の容積が表示されており、その容積の値(ml)に比重0.43をかけたものが重量になる。たとえば、5mlの計量さじを使うと摺り切り一杯で約2g秤りとることができる。
一般的に農薬のラベルには何倍に薄めて使用するのか、「希釈倍数」が表示されている。その倍数は400~1,000倍というように幅がある。この場合の400倍は、一般的には濃度の上限で、人間や家畜などへの害がない範囲を作物残留などの基準で示したものであり、1,000倍以上にしない限り「薬効」に問題はないと理解される(表7 )。ただし、マンゼブのヘリコプター散布では8倍希釈液があり、散布回数は3回以内とされる。農薬の適正な使用量は希釈濃度のみならず、散布方法、散布回数との関係で決まることはいうまでもない。マンゼブでは下方または側面から散布し葉裏に付着させるよう、丁寧に散布すれば、確実に7日間は有効である。
サクーにおける10 月下旬以降の降雨日はきわめて少なく、晴天の時間が十分に長いので、散布後の乾燥・展着には問題ない。したがって、散布間隔を慣行よりも長くすれば、確実に散布回数を減少させることができ、減農薬の余地は大きい。また、展着剤を使用するのが効果的であり、より安価で確実なのは中性洗剤である。
写真13 慣行の農薬散布法(上方向からの散布)
写真14 農民は噴霧器のフィルターで農薬量を秤る
(粉剤なので粉飛びによる吸い込みに要注意)
写真15 バケツで希釈して噴霧器にそそぐ
写真16殺菌剤の散布後のバレイショ:葉面の一部が「白く」なっている
写真17 スプーン大さじ山盛り1杯
写真18 農薬噴霧器用フィルターに大さじ山盛り10杯