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3-2 種イモの供給体制

 ネパールにおけるバレイショ品種の改良は Centro International de la Papa ( International Potato Center, CIP ) との国際的なネットワークのもとで進められており、地域に適合した優良品種が供給されている。前述したように疫病の増殖過程には二つのサイクルがあり、交配型のサイクルでは卵胞子が気象条件にかかわらず塊茎や土中に長く生存し、第1次伝染源となる。バレイショ疫病に感染していない種イモを使用することが重要であるが、カットしても外見では判定できない。しかも、種子消毒は有効ではない。したがって、技術指導では播種時の種イモの選別法に重点をおいた。

Table 5 Some traits of major potato cultivars in Sankhu

 現在Sankhuで生産されているJanak Dev, Cardinal, Jhapadiは、従来の品種に比較すると、疫病抵抗性をもつ(Table 5)。2015年2月に実施したNARC バレイショ研究部での聴き取り調査によれば、これらの普及品種の種イモの供給体制には問題があり、「原々種」Pre Basic Seed ( 以下PBS ) の供給は需要量の半分を満たしていない。2016年度の場合、PBS推定需要量80万個のうち35万個の供給を目標としたが、定温貯蔵庫が故障し、PBSの発芽率が低下し、目標を達成できなかったという。

 ネパールでは採種用バレイショ(以下、種イモ)生産は改良種子の普及速度を重視したためか、当初から3つのルートをもっている ( NARC, 1997 )。図13に示すように、日本と同様に、NARC がマイクロチューバ、原々種(PBS)を生産し、地方政府機関の厳密な監督・検査制度のもとで、政府直営農場と認定種イモ生産農家グループによって原種、種イモを生産し、一般農家に供給する経路が(A)である。またPBSを圃場で増殖し、その原種(Basic Seed)を使用して収穫したバレイショを、農家はファーストジェネエーション、セカンドジェネレーションと称している。NARC によれば原々種の約50%が認定農家グループに有料配布されることになっているが、政府直営農場のPBSの生産能力は農家の需要を満たすには程遠い状況にある(2015年NARCバレイショ部におけるヒアリング)。1990年代には認定種イモ生産農家グループはカトマンズ周辺に数組あったが、現在の実態把握は難しい。本来の種イモ生産システム(A)に加えて、個人農家がファーストジェネレーションを購入して増殖させる経路(B)(C)がある。これらの経路において病害対策などはきわめて不完備になっている。

図13 ネパールにおける採種用バレイショ生産体制の現状

資料:NARC(1997),Fig2, p.19を参考に作成

図14  日本における原々種を起点としたバレイショの生産状況

注)下段の数値は増殖過程での生産重量:田島和幸(2010)

 日本では、独立行政法人種苗管理センターが、バレイショ生産の起点となる健全・無病の原々種と原種を生産し、その原種を使用して農協や生産組合が種イモを生産している(図14参照)。バレイショ生産の増殖過程は、国の機関によって1千4百tonの原々種( PBS )が2万1千tonの原種に増殖され、採種農家によって17万2千tonに増加し、これを種イモとして最終的に267万8千tonの販売用バレイショ生産量となる。増殖の倍率は、PBSから原種、原種から種イモの段階で、それぞれ15倍、8.2倍である。ネパールの単収水準と生産状況から、原種から種イモの段階の選抜倍率を6~7倍に、より高く設定することが、現状でとりうる改善策になる。

 ネパールでは、日本の種苗管理センターの原種生産を認定農家グループが担っていることは間違いない。したがって、種イモ生産の制度的な枠組み(A)に沿って、種イモ生産組合を強化することが喫緊の課題になる。なお、2015年のサクーにおける全圃場調査では、ウイルスの感染株は各所で認められなかった。2016年に少数の感染株を認めたが、ウイルス感染は顕在化していなかった。Sankhuはウイルスを媒介するアブラムシの発生が少ない環境との印象をもつほどであった。

 アンケート調査でウイルスに感染したバレイショの茎葉の写真を見せ、「この病害を知っていますか?」と質問した際には、ほとんどの農家が認識していなかった。先進国における収量低下の大きな要因はウイルスであり、ウイルスのない種イモを使用することが何より優先されているが、現時点でサクーの農家のPBSへの期待が大きいのは、検定済みの種イモの入手が難しく、種イモの自家更新が長く続いたことによる単収低下、あるいは疫病抵抗性のある新しい品種を早く手に入れたいからである。

 技術指導では、農家が適正な農薬使用技術を実践できるよう、良質の種イモを取得し、選別を徹底するよう指導した。技術指導を受けたリーダー農家を中心に農業生産グループが自主的に組織され、NARC、DADOの協力を得て、2016年の1月にPBSを取得し、共同作業で種イモ生産を始めた。2017年1月の種イモ植え付けの際には本会所属のバレイショ生産農家が直接、選別作業の手順を指導し、選別に十分な時間をかけるようになった。2017年に認定グループとなった。

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