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バレイショ疫病と農薬の適正利用

ネパール・サクーの持続的農業のために

NPO  法人農業開発研究会

Research Group for Agricultural Development, Sapporo, Japan

2017 年 12 月 25 日

はじめに

 近年、ネパールにおいて農作物の病害対策が重要な課題となっている。本冊子はバレイショ疫病に焦点をあて、どのような農薬使用の技術対策が有効なのかを提案している。とりあげたバレイショ疫病は、19 世紀中頃のアイルランドで大飢饉をもたらした直接の原因で、以来、先進国では国レベルの試験研究機関などと連携した地域対策を講じている。バレイショ疫病の菌は 10km 以上離れた距離から飛来する。感染の対処法として  Mancozeb(マンゼブ)の散布が有効で、世界中で広く利用されているが、米国環境保全局(EPA, 2005)はその長期的な使用の影響について重要な関心事項としている。

 適正な農薬使用は疫病による減収のリスクを低減するが、ネパールでは過剰な農薬使用によって農家の経営収支が悪化し、農薬マンゼブの不適正な使用法が健康被害、環境汚染を引き起こすのではないかという不安が広がっている。事実、農家の作物病害に関する基礎知識は十分とはいえず、農薬散布作業時の注意も守られていない。一方、疫病抵抗性をもつ品種改良は、国際バレイショ研究センター  CIP  との連携で実施されているが、農家が検定済の種バレイショを入手することは難しい。

 そこで、2015 年 2 月~2017 年 3 月の期間に JICA 草の根技術指導「ネパール・サクー村における農薬の適正な使用技術」を実施した。この冊子ではバレイショ疫病対策に焦点をあて、病害の基礎知識を整理し、農薬を適正に使用するための基本技術を整理した。ここで農薬の適正な使用技術とは、作物の病害が発生した場合、必要な時に最適なタイミング(初回散布時期と散布間隔、散布回数の制限、出荷前の散布制限日数)で、適量の農薬を使用することである。このために、ローカルな気象と疫病の観測活動によって疫病発生の好適気象条件を判断し、不必要な農薬の散布を減らす試みをサクー村(以下サクーと略す)で開始した。本冊子では、北海道農業試験場のバレイショ疫病の長期的な観測結果と試験研究成果をもとに、ネパールにおける農業気象情報を利用した最適な農薬使用の手順を提案した。

 サクーでは水田を利用してバレイショを栽培し、田植えが早い圃場では、水稲収穫後にバレイショを2作する、高度な土地利用をしている。こうした水田利用は、水稲作の湛水期間において、有害な土壌中の菌が死滅するために、農薬の使用を最小限に抑えるメリットがある。最近、カトマンズの近郊農村では、スマートフォンによって1時間ごとの気温、湿度、降雨などの気象予報が利用できるようになってきた。一方、世界的には、圃場レベルの気象観測結果をクラウドに発信・蓄積するフィールドサーバーが低価格で市販されるようになり、露地栽培の作物病害対策への気象情報の利用法が開発されている。このような情報通信環境の変化を視野に入れると、地域固有の気象をよく知るネパールの農民が気象観測データを利用して、農薬使用を適正に、必要最小限に抑えることは可能である。

 農業開発研究会では、引き続きサクーの農民とともに、ネパールの農業技術改良指導を継続している。この冊子が、ネパールの持続的な農業成長への一助となれば幸いである。

謝辞

 実践的な課題に関して、北海道大学農学研究院、北海道中央農業試験場病虫部、北見農業試験場、北海道農業改良普及所、独立法人農業研究機構北海道農業研究センター芽室拠点、独立行政法人種苗管理センター北海道中央農場、長崎県農業技術開発センター馬鈴薯研究室の専門家の方々に、バレイショ疫病対策、FLABS の情報システム、農業気象観測に関する基礎知識を提供いただいた。ネパールでは  カウンターパートであるネパール環境教育センター(CENEED)  のネットワークを介してトリブファン大学、ネパール農業研究センター  (NARC)  などの研究者に協力いただいた。

 この技術指導ではネパールの農民を北海道へ短期招聘し、疫病対策、バレイショ種子生産、露地野菜の有機農業経営の取り組みなどについて、現場での研修を実施した。研修には北海道有機農業推進協議会の会員農家の方々、JA 大正、大塚ファーム、北海道中央農業試験場病害虫部、(株)システムデザイン開発にご協力いただいた。ご指導いただいた皆さまの的確なアドバイスと親身な対応に深謝する。(株)地域開発センターから業務上、多大な協力をえたことを記して感謝する。

 サクー村における技術指導に積極的に参加し、現在、カトマンズ区から認証を受けて活動しているスンカラプール農業グループ、バレイショ疫病と農薬の使用法についての講演会を共催いただいたサクーのライオンズ倶楽部のみなさまに感謝する。最後に、現地での活動にご協力いただいた JICA ネパール事務所、ネパール日本大使館、そして JICA 北海道の職員の方々に感謝する。

2017 年 12 月 25 日

特定非営利活動法人農業開発研究会

理事長 長南 史男

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